まちづくりトークは、UDC2関係者に限らず広く市民の方々と一緒に柏のまちづくりに関係するテーマについて、知見を深め交流の場となることを目的としています。
今回のまちづくりトークでは、プレイスメイキングの研究者である田村氏からプレイスメイキングの一般論・プレイスゲームなど実行プロセスの紹介、プレイスメイキングの実践者である笠置氏からは他都市で実施した社会実験の紹介いただき、柏の街のプレイスメイキングのヒントを探りました。
以下に、当日の内容をご紹介します。
・タイトル:柏の街のプレイスメイキング
・日時:2021年10月28日(月)19:00‐21:00
・形式:オンライン(ZOOMウェビナー)+ 現地会場(UDC2会議室)
・内容:1部 ゲストトーク 2部 トークセッション
・事前申込み数:オンライン(161名)+ 現地会場(10名)
・当日参加者:オンライン(80名程度)+ 現地会場(7名)
・参加費:無料
・主催:一般社団法人柏アーバンデザインセンター(UDC2)
・1部 ゲストプレゼンター:
田村 康一郎 氏 |一般社団法人ソトノバ共同代表理事
笠置 秀紀 氏 |株式会社小さな都市計画
・2部 モデレーター:
安藤哲也|柏アーバンデザインセンター副センター長
大きく分けて、次の5つの内容についてお話を伺いました。途中、視聴者の方々からの質問にも回答しています。
はじめに「プレイスメイキングの取り組み自体は良いことだが、誰がどういう課題認識で、どのように運営していくのか」ということについてお聞きしました。
〇笠置
まず、三鷹のプロジェクトでは公的な支援はなく完全に有志団体でやっています。商店街の予算の一部を使っていて材料も節約するなど、本当に低予算でやっています。その代わりいろいろなしがらみはなく、自由にやらせていただいています。
〇田村
一般的に課題認識については、文化的な側面から取り組むところもあれば、防災のような地域の安全といった側面から取り組むところもあります。柏のまちを想定すると、地域の商業団体や地権者の集まりでやるのがイメージとして近いのかなといった印象です。まちなかでも清潔がベースにあるのが日本ですが、アメリカでは放っておくととても汚れてしまうという課題感の違いがあります。そのため、外注などで人を雇って綺麗にしていくというところからはじめないとクオリティが保てないという気がします。
〇安藤
エリアマネジメントが日本では根付かない理由はそこにあるかもしれません。日本では、まちを良くするのは行政の仕事だという意識が何となくある気がします。対して、アメリカでは「行政にたよっていたらちっともまちはよくならないから自分たちがやっていこう」という考えがあるように思えます。
〇安藤
笠置さんのベンチにデザインした人の個人名を入れる工夫というのは良いと思いました。
〇笠置
ひとの居場所づくりとして、細かい部分の設えが効くんじゃないかという仮説でやっています。座るところを布にしたり、心地良さを考えたり、座ったときに見える景色とか、丁寧に人間スケールでデザインするということをやっています。
〇安藤
先ほどの笠置さんの歩道の縁石に木の設えをして座れるようにしたデザインも、それがあることで、この都市空間は人がいて良いというメッセージを人間側に向けて発信しているように思えます。
〇笠置
建築の言葉でいうとアフォーダンスというのですが、そのような公共空間の寛容性を誘発することを意識しています。
〇安藤
多様性の裏返しが寛容性だと考えていて、多くの人がありのままでいて良いという寛容性が多様性のベースにあると思います。つまり、寛容性を受け止める側のリテラシーが育っていないと多様性も受け止められないので、寛容性が都市空間に求められる流れがあるのは良いことだと思いました。
〇安藤
コミュニティには2つの考え方があると思っていて、町会のような地縁型コミュニティといわれるものとテーマ型コミュニティの捉え方があります。自分たちはどっちなのかを理解することが大事で、コミュニティというくくりだけだとよくわからないことになる気がします。
〇田村
コミュニティは住んでいる人だけに限らないという認識です。例えば、豊田駅前のスケートボードの事例はテーマ型です。スケートボードパークを丁寧につくりあげた結果、周りから人が集まるきっかけになりました。
〇笠置
先ほど紹介した部活はテーマ型ですね。商店街は地縁型ですが、責任感があるので離れられないという側面があって、その分抱え込んでいるところがあるように思えます。それをもう少し分散化したいですね。通勤する人、遊びに来る人の中にもそのまちが好きな人はいるのでもっと巻き込んでいきたいと考えています。
〇安藤
地縁型は場所に縛られるという側面があるので、結びつきは強いけれども、柔軟な発想ができないことが欠点もあるのかなと思います。一方で、テーマ型は「ゆるさ」がよい反面、常に活動する場所に困っている印象を受けます。そういう方々のことを理解していて結び付けていくような推進者がでてきて、それらがうまくつながっていけば、プレイスメイキングが良い循環を生む気がします。
〇田村
やること自体が目的化していくところはあると思います。これを避けるためにはしっかりフィードバックすることが重要で、詰めすぎてやるとフィードバックがしづらく、次のアクションにつながりにくいということがあるのかもしれません。
〇笠置
確かに頑張りすぎないことはポイントですね。軽くいくつか走らせながら、どれかがダメだったらそれで良いみたいな気軽にやっていくことも継続のコツだと思います。
〇安藤
UDC2のストリートパーティーの例でいうと、毎回実行委員会が解散するということを決めています。ずっと同じLINEグループでやっていると、参加しなかった回でも沢山LINEが届いて罪悪感を感じたり、だんだん嫌になってしまう可能性もあるので、毎回新規で実行委員会を募集しています。また、毎回何にチャレンジするかを決めることで、フレッシュな気持ちで自分たちで階段を上っていく感覚をつくっています。
〇田村
記録に残すことも重要ですね。アーカイブを充実させていくことで、まちへのモチベーションが上がると思います。
〇笠置
心持ちの一つとして、「数人救えれば良い」というモチベーションでやっています。一万人を一度に相手にするよりも、個々のスポットで人を癒したり、土地の魅力を個人的に享受できることとか、過疎地域でもそういう魅力を引き出せる場所をつくっていくことができるのではないでしょうか。数より質を追求することが大事だと考えています。
〇安藤
川崎市で実施されている「かってにおもてなし大作戦」では、「3人おもてなしすれば良い」ということをコンサルタントから提示されて目標に掲げていました。3人といえば、家族とか友達で足りる。このようにプロジェクトの成功のハードルを下げていくことで気持ちが楽になって、楽しい思い出が残っていきます。プレイスメイキングも3人の居場所をつくることからはじめてみるという発想はあるのではないかと思います。課題や目的をどこに持って、設定をどうするかが大事なのではないでしょうか。
〇笠置
対策は0 or 1ではないと思います。なんでも禁止とかではなくて、グラデーショナルな制御はないかということを模索中です。いじわるベンチとか、音響で制御するなど見えない対策がありますが、実はデザインが良いと多少は行儀が良くなるという実感があります。どこまで制御することが倫理的に良いのかみたいな広い意味での公共性は今後議論を続けていく必要があります。
〇安藤
コロナ禍で柏のデッキ上のベンチに対して市役所に毎日クレームが来た時期があって、その中で「若者が座っているから撤去しろ」という理不尽なものもありました。しかし、クレームが入った以上対策をしないといけないので、最終的にベンチを全て撤去することになりました。声が大きい一部の人の意見で若者は居場所を奪われているのです。これはアーバンデザインの領域以上に重要な話で、若者は知らない間に自分たちの居場所が取り上げられているのです。「市長への手紙」なんてシステム自体を知らないので自分たちの居場所の取り返し方が分からず、一方的に奪われているのです。公共空間へのリテラシーを小さい時から育てることが大事で、早いうちから若者に社会との接点をつくり、社会参画の仕方を学んでいかないと、長期的に見ても公共空間が良くなっていかないと思います
〇田村
解釈はとても広いと思います。普通に訳したら「場づくり」ですが、ニュアンスが異なります。今回の議論を踏まえて「愛着のある場を育てること」といったところでしょうか。
〇笠置
日本語訳はちょっと難しく、和訳するというよりは意味を理解することが重要だと思います。経済や公共空間の衰退など、社会的な状況からプレイスメイキングをやらなければならなくなったという文脈があるので、例えば、今一度アメリカの事例を勉強してみたりするなかで、意味が浮かび上がってきたり、体感的に分かってくるものだと思います。
〇田村
本日の話からいろいろと気づきがありました。柏は様々な活動をしており、プレイスメイキングの事例として今後も追いかけていきたいと思います。また、笠置さんのお話のなかで、周りを巻き込みながら活動することのひとつのかたちとして、デザインが地産地消で成り立っていることが印象的で、そういった視点はプレイスメイキングの一つのヒントだと思いました。ありがとうございました。
〇笠置
もやもやしていたことが整理されました。自分自身、試行錯誤しながら活動しています。しかし、答えがあって計画があって都市をつくるよりも、コロナ禍のような状況もありつつ模索しながらやることは楽しいし、今後も模索しながら悩みを共有したいと思っています。現場で活動している方の質問もあり、みんなも悩んでいるということが分かり、共感から逆に勇気づけられたところもあります。ありがとうございました。
〇安藤
UDC2は初めからプレイスメイキングをやっていたわけではなくて、公園がない柏に人々が憩うことができる場所を作らなければならないという思いから、知恵を絞ってやった結果が今の段階です。ただ、ずっと悩んでいるのは、それが常設に結び付いていないことです。我々としては、活動を継続しながら開発の機運が高まった際に、我々が得た知見を活かして良い街が生まれるようにしていきたい。UDC2は開発主体ではないですが、今後の開発時に担い手と一緒になって、UDC2が持っている文脈を引き渡していきたいと考えています。お二人とも本日はありがとうございました。
トークセッション中に回答できなかったご質問について、ゲストのお二人にメールでご回答をいただきました。
〇田村
ケースバイケースで一概に言えるものではないと思いますが、民間事業者や地域団体、中間支援組織などの関りを増やしていくこと、それを形にするための仕組みなどをつくっていくことを、実験を通して探るのだと思います。そこはある程度時間と繰り返しが必要なプロセスです。継続できるちょうどよい規模感や形態もポイントかと思います。
○笠置
社会実験においては行政と民間企業の主体が多く見受けられますが、第三極としてボランタリーセクターの発展が公共空間の成熟に欠かせない要素だと感じています。継続にあたり地元のボランタリーセクターの地域に根ざす責任感に期待しております。資金面とクオリティの課題をいかに改善するかが鍵となりそうです
〇田村
実際に住まわれてる方からアイデアを引き出してみてはどうでしょうか。団地内あるいは周辺でぜひ自らこういうアクティビティを提供したい、という方がいれば、内発的で“適した”アクティビティとなるのではないでしょうか。また一般的な話となりますが、民地であれば公共管理の空間ではできないような大胆な使い方も可能な一方、居住エリア内ではあるので迷惑に思う人が多いもの(または時間帯等)は初めは避けるのが無難かと思います。
○笠置
住民の年齢層によりけりですが、一例としては高齢化は大きな団地の問題となっています。移動販売車両などの用途をキーにして、付随するサービスやアメニティの向上によって実現できる可能性はありそうです。また団地外の周辺エリアに目を向けることも良いのではないでしょうか